稲穂の頭

 大相撲九州場所は横綱・白鵬の優勝で幕を閉じた。連勝記録こそ序盤でストップされたものの、最後まで挫けずに取り続けた精神力と責任感、優勝後の談話で、真っ先に決定戦に持ち込んだ平幕力士の健闘を褒めたたえた真摯な姿勢は、外国人力士とはいえ、まさに日本国技大相撲の最高位の称号を持つ者にふさわしい品格を見せた。かつて彼が故郷モンゴルから旅立つ際に、彼の母親は贐に日本のことわざを紹介して、こう諭したという。「日本には、稔るほど頭を垂れる稲穂かな―という言葉があるそうです。それは強くなればなるほど謙虚になりなさいということ。この言葉を忘れずに頑張りなさい」と。
 まさに、この親ありてこの子あり。大横綱誕生の蔭には母親の大きな愛情があったということだろう。いつの世でも母親ほどありがたい存在はない。

 さて、そんな心ある母親方に、今の日本の民主党閣僚の振る舞いはどう映っているのだろうか。
 多くの国民がマスコミの報道に踊らされ、すべての閉塞感を自民党政権に押し付け、実現不可能な選挙公約に翻弄された1年2か月。内政、外交とも支離滅裂でメッキが剥がれるには余りに早すぎる。
 鳩山由紀夫前総理大臣、柳田稔前法務大臣の辞任は論外にしても、参議院で問責決議が可決されたにもかかわらず薄笑いさえ浮かべ居直る仙谷由人内閣官房長官と馬淵澄夫国交大臣には呆れるし、国会内でのファッションショーまがいの雑誌撮影を、まるで正当な許可があったかのように偽証した仕分け人、蓮舫国務大臣には正直言ってがっかり。言論封殺ともいえる内部通達を出し、その重大な過ちに気付くこともない北澤俊美防衛大臣はどうかと思うが、もともと問題があったはずの朝鮮学校授業料無償化を、北朝鮮のドカンを受けて、たちまち論拠も振り捨てて停止に走った高木義明文科大臣もどうかしている。
 なかでも、一触即発の朝鮮半島情勢を目前にして国家の治安を任された国家公安委員長が「宿舎で待機していた。事務方からは何の連絡もなかった」なんて、とても信じられない。もっとも海外の反日活動に国会議員でありながら参加した経歴のある岡崎トミ子委員長に、国家の重要秘密を打ち明ける事務方がいるはずはないのかもしれないが…。
 一見、保守的に見える前原誠司外務大臣にしても似たり寄ったり。そもそもは国旗国歌法に反対していた人物。それが今では日本の国益を背負って立つ立場というから恐ろしい限りだ。JALは潰さないと明言しておきながら結局は会社更生法適用を申請、八ッ場ダム建設中止を宣言しておきながら、あっという間に後任に撤回され、尖閣事件でも「逮捕は当然」とかなんとか胸を張って一見頼もしそうに見えたのだが、その後は釈放に従ったかのように沈黙。最近は、野党の審議拒否を「税金泥棒」呼ばわりしているそうだが、年金制度問題、後期高齢者医療制度、ガソリン税の暫定税率など審議拒否は民主党のお家芸のはず。すっきりとした見かけとは違って、理論破綻も甚だしい。
 極め付きは、そのすべてを束ねる菅直人内閣総理大臣。本人の発言か、友人からの激励かは知らないが「支持率が1%でも総理を辞めない」なんて言う形振り構わぬ保身ぶりは、民主主義への挑戦を宣言しているようにも聞こえる。これじゃあ話にならない。移ろう支持率に一喜一憂する必要はないにしても、それではいったい総理として何をしたいのか、この国のビジョンを語らずにして、ただただ権力の座にしがみ付こうとする醜態は、如何ともしがたい。
 どうやら民主党という稲穂は、籾の中が空っぽなだけに、頭を垂れることはないのかもしれないナ。

 ところで、問責決議という言葉で思い出されるのが平成16年の第159回通常国会。往時、我が主人、衛藤晟一参議院議員は衆議院議員だったのだが、そこで解任決議案を提出されたのだ。
 6月4日に開かれた本会議は、まさに我が主人のためだけに開かれたようなもので、ただ一つの議案(第38号議案)「厚生労働委員長衛藤晟一君解任決議案」が上程され、3時間余りの時間を費やし審議された。(なんとこの採決で野党・民主党は牛歩戦術に出た。自らが提出した議案で自らが遅延行為を行うなんて、このころから民主党は良く分らないことを平気で行っていた)
 内容は確か、年金に関しての負担額増と支給額減を採決した主人の委員会運営に対する批判だったように覚えている。提案議員、賛成討論を発言する議員から「国民の不信を増大させた」、「憲政史上に残る暴挙」と、合計33回(だったように思う)も名指しで罵倒される主人がテレビ画面に映し出されるたびに、議員室で釘付けになりながら拳を握り締めていた秘書らの情景を、昨日のことのように思いだす。結果は賛成99、反対270で否決されたのだが、内容は別として、テレビ画面に映しだされる自分の議員が批判されるシーンは耐えるに忍びない。さんざん民主党の閣僚を批難はしたものの、使える事務方、秘書各位の心中は、察するに余りある。

 この後程無く、我が主人は、自身に国民年金未納期間があったことの責任を取って、厚生労働委員長を辞任した。主人自身「年金改正法案を通過させることが自分の使命」という強い意志があっただけで、委員長の肩書には何の未練もなかったようだ。「年金の一元化を含む年金制度の改正は、どの党が政権を取ったとしても急務の課題。その間でも国民が安心して生活を営むためには、少なくても現状でできる手当は必要だった。これで当分は心配ない。これからは基礎年金の国庫負担分の引き上げ(平成21年可決)と無年金者対策、それに低年金問題が課題だな」。往時、主人はそう語っていた。